本当はコワい? SDGs

1.ペルー日本大使公邸襲撃事件

 1996年12月17日、ペルーの首都リマにある日本大使公邸では天皇誕生日を祝う祝賀レセプションパーティが開かれていた。宴の最中、突然、ペルーの左翼テロ組織MRTA(ツパク・アマル革命運動)のテロリスト14名が大使公邸を襲撃、パーティの参加者多数が人質となった。在ペルー日本大使公邸占拠事件の始まりである。
 当時のペルー大統領アルベルト・フジモリはMRTAの要求に対して強硬な態度で臨んたため、事件は膠着状態となってしまった。
 その間、MRTAは数度に分けて人質を解放し、最終的に日本人及びペルー政府要人71人が人質として残っていた。
 フジモリ大統領は事件発生当初から大使公邸の監視体制の強化、救出作戦の立案を行っていたが、日本政府(橋本龍太郎首相=当時)は、犯人の要求を呑んで人質を無傷で解放させることしか考えていなかった(らしい)。
 ウィーン条約第22条によれば、在外公館は本国に領有権があり、仮に人質救出のためとはいえ、ペルー政府が独断で軍隊を派遣すれば、外交上非常にマズいことになる。
 そこで、フジモリ大統領は、秘かに強行突入作戦の準備を進めるとともに、カナダのトロントで橋本首相と会談し、何とか大使公邸への軍隊突入を認めさせようと考えていた。もちろん、日本政府は、軍隊の強硬突入など大反対であり、フジモリ大統領を説得して強行突入を思いとどまらせようとしていた。同床異夢である。
 1997年2月1日の首脳会談でフジモリ大統領と橋本首相との共同声明が発表されたが、その第6項は次のようになっていた。

「日本政府は、平和的解決に向けた対話を進展させるためには、人質の身体的および精神的健康の維持が不可欠であるとするペルー政府の立場を指示する」

普通の日本人がこの合意の文章を読めば、何を今さら当たり前のことを、と思うかもしれない。実際、日本のマスコミはこのトロント合意を『平和的解決で合意』と報道した。しかし、この第6項にはまったく別の意味が含まれていたのである。

 1997年4月20日、MRTAリーダーのネストル・セルパ・カルトリー二は、ペルー政府に対し、それまでほぼ毎日受け入れてきた赤十字による人質の健康診断を週一回に制限すると通告してきた。その後、セルパ自身が死亡したためその真意は不明であるが、おそらく、事件の長期化に対して、ペルー政府から新たな譲歩を引き出すための揺さぶり戦術だったのではないか、と言われている。
 一方、この通告を受けたペルー政府は健康診断の回数が制限されたことで、「人質の身体的および精神的健康が危険に晒され、平和的解決に向けて対話の進展」が、困難になったと判断し、武力行使を決断した。
 それから、2日後の1997年4月22日、フジモリ大統領はチャビン・デ・ワンダル作戦を発動、日本大使公邸の庭まで秘かに掘られていた複数のトンネルからペルー軍特殊部隊が一斉に突入した。特殊部隊員2名死亡 人質1人が犯人に殺害されたものの、残り71人は救出に成功、犯人14人は全員射殺された。
 日本政府はペルー政府に対してウィーン条約違反を問わず、うやむやに対処したことで、ペルー政府の第6項の解釈を正当と認めることとなったのである。

 カナダでの会談では「日本政府は、人質救出のためにペルー軍が日本大使公邸に突入することを容認する」などという直接的な表現は一切なされていない。しかし、あの一見、何でもない文章が結果的に軍事作戦容認を意味していた、ということである。
 政治的な発言というのは裏の裏まで読まなければ真意は判らない、ということであろうか。

 

2.SDGs

 SDGsとはSustainable Development Goalsの略で、2015年9月25日に国連総会で採択された、持続可能な開発のための17の国際目標である。その中で、2030年までに達成するべき持続可能な開発目標 (SDGs) として17の世界的目標が示された。

 1.貧困をなくそう (英: No Poverty)
「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」

 2.飢餓をゼロに (英: Zero Hunger)
「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」

 3.すべての人に健康と福祉を (英: Good Health and Well-Being)
「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」

 4.質の高い教育をみんなに (英: Quality Education)
「すべての人々へ包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」

 5.ジェンダー平等を実現しよう (英: Gender Equality)
ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」

 6.安全な水とトイレを世界中に (英: Clean Water and Sanitation)
「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」

 7.エネルギーをみんなに、そしてクリーンに (英: Affordable and Clean Energy)
「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」

 8.働きがいも経済成長も (英: Decent Work and Economic Growth)
「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用を促進する」

 9.産業と技術革新の基盤をつくろう (英: Industry, Innovation and Infrastructure)
「強靱なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及び技術革新の推進を図る」

10.人や国の不平等をなくそう (英: Reduced Inequalities)
「各国内及び各国間の不平等を是正する」

11.住み続けられるまちづくりを (英: Sustainable Cities and Communities)
「包摂的で安全かつ強靱で持続可能な都市及び人間居住を実現する」

12.つくる責任 つかう責任 (英: Responsible Consumption and Production)
「持続可能な生産消費形態を確保する」

13.気候変動に具体的な対策を (英: Climate Action)
「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」

14.海の豊かさを守ろう (英: Life Below Water)
「持続可能な開発のために海洋・海洋資源保全し、持続可能な形で利用する」

15.陸の豊かさも守ろう (英: Life on Land)
「陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」

16.平和と公正をすべての人に (英: Peace, Justice and Strong Institutions)
「持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する」

17.パートナーシップで目標を達成しよう (英: Partnerships for the Goals)
「持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」

 

 さて、SDGs自体は一見、良いことを言っているようにも見えるが、蜀犬に言わせれば、これら17の目標を2024年から6年後の2030年までに達成するというのは、はっきり言って正気の沙汰ではないのではないか。
そもそも、SDGsの目標自体が相互に矛盾するものを含んでいる。例えば、『飢餓をゼロに』にして『すべての人に健康と福祉を』を与えれば、必然的に人口の増加を招き、結果的に食料不足となってしまう。不足した食料を供給しようとすれば、漁業資源の乱獲、耕地面積の拡大を招き、結果的に『海の豊かさを守ろう』、『陸の豊かさも守ろう』と、矛盾することになる。
 もちろん、『2030年』という時間の制約を外せば、これらの目標を達成することは不可能ではないかもしれない。
 例えば、1970年代、食料供給量と人口増加率から、人類滅亡の可能性がささやかれた時、ある解決策が示されていた。地球上のメガソーラーは晴れた日の数時間しか発電することはできないが、天気自体が存在しない宇宙にメガソーラーを設置すれば、24時間クリーンな電力を得ることができる。農業にしても、24時間晴れた状態なので、植物の生育も桁違いに効率が良くなる。
 このため、宇宙空間に巨大な居住空間を建造して人々がそこで暮らすようになれば、食料、エネルギー問題も一気に解決することができる。いわゆる、スペースコロニーである。なお、今やスペースコロニーと言えば、アニメ「機動戦士ガンダム」シリーズの舞台となりアニメの話と思われるかもしれないが、元はプリンストン大学のジェラルド・オニール教授が提唱した真面目なアイデアで、人口増加問題の究極的な解決策として提案されたのである。
 もし、本当にSDGsを達成しようと思えば、スペースコロニーの建設が必須となるかもしれない。
 一方、オニール提案のスペースコロニー構想では月面に巨大な電磁カタパルトを建造して、月の鉱物資源を宇宙ステーションに送って精錬し、その大量の資源を元にコロニーを建設するとなっており、そもそも月面に巨大な電磁カタパルトを建設には、軌道エレベータやオービタルリングなど現在のロケット技術とはまったく異なる安価な軌道進出技術の完成が前提となる。50年、100年レベルの宇宙開発ならば、そのような構想が現実化する可能性もあるだろうが、6年間ではまず不可能である。

 もっと足に地のついたアイデアとして、メガフロートを使った巨大洋上浮体都市、さらに、アフリカ中央部に巨大な人造湖を作ってサハラ砂漠を緑化といったことも考えられているが、メガフロートでは建設自体に莫大な資源とエネルギーが必要であるし、内陸部に巨大な人造湖を建設すれば領有国の国土面積の大幅な減少、砂漠の環境破壊といった問題の他、大砂漠地帯の緑化が人口の大移動(移民)を招き政治的な問題が山積するのは目に見えており、こちらも課題満載である。

 ところが、SDGsはそのような長期的視点ではなく、あくまでも2030年という6年後に達成しなければならないのである。

 ここで、SDGsを改めて見てみると、欠けている、あるいは意図的に無視されている項目がある。それは、『適正な人口管理』である。80億人(2022年データ)とも言われるすべての人々に対してSDGsの目標を達成することは困難だが、もし、これが10分の1の8億人にSDGsの目標を達成する、というということになればどうだろうか。海洋、森林資源を維持し、なおかつ、貧困を解消して健康増進というのは、意外にできそうな気がしてくる。
 というより、あと6年で達成するには、世界人口が劇的に減らない限り、SDGsの実現は困難なのではないだろうか。

 


3.大滅亡(ダイ・オフ)
『大滅亡(ダイ・オフ)』は、SF作家の田中光二が1974年に発表した小説である。小説発表時の近未来ということで、1990年代が舞台となっている。
 小説では異常気象や環境汚染などで食料不足が深刻となり、人々は合成タンパクを食べるようになっているのだが、一方でアメリカでは大規模な原発事故で街ひとつが消滅、フランスでは超音速旅客機が墜落事故を起こして地方都市が壊滅といった大規模な事故も頻発していて暗い世相となっている。そんな中で「世界安楽死教団」という教団が世界的な規模で活動を始めるようになる。暗い世相に絶望して入信した信者は強力な覚せい剤を注射され、忘我の境地の中で安楽死していくのである。もちろん本来であれば、国家がこのような宗教活動を許すはずはないのだが、なぜか黙認されている。
そんな中で東海地震が発生、その後、被災地では謎の熱病が流行するため自衛隊が出動して幹線道路は完全封鎖され、地震を生き延びた人々も熱病によって絶望的な事態に追い込まれることになる。
 主人公はこれらの謎を探るうちに、活断層に大量の水を高圧ポンプで送り込むことで人為的に地震を発生させたこと(元ネタは実際にあった「デンバー地震」である)、さらに熱病の原因についても人為的なものであることを突き止める。
 実は、異常気象による農産物の不作と人口増加の対策として、各国政府が密かに協力して強制的な人口削減政策を実施しており、その政策の一環として世界安楽死教団をバックアップしたり、大事故を人為的に起こしたりしていた、というのが、この小説『大滅亡(ダイ・オフ)』の概要である。

 SDGsに賛成することは、実は17の目標にはない18番目の影の目標『適正な人口管理』に賛成することを意味していて、SDGs賛成という大多数の人々の声を大義名分として、秘かに人口削減策が進んでいるとしたら・・・・。
 コロナウィルスによる世界的規模での死者の発生、さらに、戦争によるジェノサイドを別の面から見れば、それは人口の強制的な削減策と見ることも可能である。
 もしかしたら・・・・、と思ってしまうのは、日光を見ると条件反射的に吠える蜀犬の妄想だろうか?

 

参考文献
ペルー人質救出作戦―日本大使公邸解放までの127日間 山崎雅弘 学研
SF小説『大滅亡(ダイ・オフ)』田中光二 祥伝社 1974年