1.自動空戦フラップとは
太平洋戦争開戦前、旧帝国海軍は南洋諸島で滑走路を建設中に来襲する敵機を迎撃するため、水上戦闘機の開発を推進した。
水上戦闘機は胴体下に付けたフロート(浮舟)で水上から離水/着水が行える機種である。当然ながら、いったん飛び上がってしまえば、フロートは単なるデッドウェイトである。しかも、単に余分な重量増加分というだけでなく、空気抵抗の増加にもつながってしまう。このため、水上戦闘機はフロートの分だけ陸上戦闘機よりも空戦性能で不利となる。
例えば、二式水上戦闘機は零戦11型にフロートを付けて水上機化したもので、エンジン出力、主翼面積などは同一であるが、全備重量は零戦11型が2326kgfであるのに対して、二式水戦は2460kgfと、フロート関係の装備で134kgfも重くなり、さらに、最高速度も零戦11型の533km/hに対して、435km/hと98km/hも遅くなっている。

ところが、そこはドッグファイト能力重視の日本海軍である。なんと、この水上戦闘機に陸上戦闘機並みの空戦能力を求めたのである。試作命令を受けた川西航空機では、設計主務者の菊原静男技師を中心に新型水上戦闘機の開発を推進した。
水上戦闘機の弱点であるデッドウェイトを克服していかに陸上戦闘機同等の空戦性能を確保するか? ヒントは、中島飛行機製の陸軍戦闘機『隼』、『鍾馗』に採用された「戦闘フラップ」である。一部のベテランパイロットは、本来、離着陸時に揚力を確保するために使用するフラップを空戦時にも使用することで、旋回半径を小さくするテクニックを使っていたのだが、中島製の戦闘フラップは空戦中にボタン操作でフラップを作動させ、より積極的に活用しようとするものであった。
しかし、空戦中のパイロットは、眼は敵機を追い、両足はフットバー、右手は操縦桿、左手はスロットルレバー、さらに操縦桿にある機銃発射ボタンを操作しながら攻撃を行なう。ベテランパイロットならともかく、並みのパイロットでは空戦中にフラップ作動ボタンを操作することは困難であり、実用性は低かった。
川西開発チームの清水主任は、この戦闘フラップの作動を自動化することで空戦性能を向上させるアイデアを考え出した。これが川西飛行機製の水上戦闘機『強風』に装備された「自動空戦フラップ」である。
後に川西航空機は、『強風』からフロートを取り去り、代わりに通常の脚を取り付けて陸上戦闘機『紫電』を開発した。
『紫電11型』は、水上戦闘機『強風』からフロートを取り去り、代わりに陸上で運用できるように引込脚に変えたものである。『強風』は、離着水の際、水しぶきの影響を避けるため、主翼を胴体中央部に取り付けていた。このため、陸上戦闘機にした場合、主脚も長くなり、主翼内に納められなくなる。そこで、長い主脚を一旦短くして主翼下面に収納する2段引込脚を採用していた。
故障の多かった2段引込脚の代わりに通常サイズの主脚にするため、主翼を胴体下面に配置し、合わせて胴体後部を大幅に改修したのが『紫電21型(通称・紫電改)』である。
紫電21型は全備重量3900㎏fで、アメリカ海軍の主力戦闘機F6Fヘルキャットの全備重量3399㎏fと500kgf近く重いにも関わらず、自動空戦フラップが使えることで、高い空中戦能力を発揮できた。特に太平洋戦争末期、四国の松山基地を本拠にした第343航空隊の活躍は有名である。

蜀犬は、現役の開発エンジニア時代、メカトロ設計のメカ部分を担当したのであるが、現役終期に、電子制御を使わないフィードバック制御システムのアイデアを検討したことがあった。その時に参考にしたのがこの自動空戦フラップである。ところが、自動空戦フラップの解説書を改めて読んでみて、空戦フラップがどのように作動するのかさっぱり理解できていなかったことに気が付いた。
自動空戦フラップは旋回飛行時に揚力が不足して機体が失速する直前に、自動的にフラップが下がり始め、その飛行状態で最適な揚力を発揮するフラップ角度を維持し、旋回飛行が終わると、自動的に収納される。この最適なフラップ角度を維持するというのが、「戦闘フラップ」との最大の違いである。現在の技術であれば、荷重センサ、速度センサ、フラップ角度センサ等の情報から、フラップ角度が最適となるようにコンピュータがフラップ作動アクチュエータをフィードバック制御するというのは、難しい話ではない。
しかし、当時の自動空戦フラップには、複雑な電子制御システムなど一切使われていなかったのである。
水上戦闘機『強風』や戦闘機『紫電』の解説書には必ず登場する「自動空戦フラップ」であるが、システムとしての解説がまったくないのは問題だろう。そこで、今回、自動空戦フラップについて、蜀犬流の解説を行ってみたい。
2.旋回飛行
空中戦では、相手の後方に廻り込んで銃撃する必要があるため、2機の戦闘機が互いに組んずほぐれつの格闘戦、いわゆるドッグファイトを展開する。この時、相手よりも旋回半径が小さければ、相手の追撃をかわしたり、逆に逃げる敵機を常に銃撃位置に捉えておくことができる。

ここで、飛行機が旋回する時の力学を考えてみよう。飛行機は重心を中心として、ロール軸(横揺れ)、ピッチ軸(縦揺れ)、ヨー軸(片揺れ)の3軸の動きがあり、ロール軸は補助翼(エルロン)、ピッチ軸は昇降舵(エレベータ)、ヨー軸は方向舵(ラダー)でコントロールを行う。

一般に飛行機が方向舵を操作すると、ヨー軸を中心として機体の向きは変わり、大きな円を描いてゆっくり旋回していく。より小さな半径で旋回するためには、横向きの力を積極的に発生させる必要があるため、補助翼を操作してロール軸方向に機体を傾ける。この結果、揚力の一部を水平旋回させるための力に変えるのである。この時の旋回半径は、機体のロール軸の傾きによって決まる。
自転車の車体を直立させた状態でハンドルを切ると大きな旋回半径となるが、車体を傾けて旋回させるとより小さな旋回半径となることをイメージすればお判りいただけるだろうか。

一方、揚力の一部が横向きの力に変わることは、重力方向の揚力が不足することを意味する。そこで、水平旋回を維持するためには不足した揚力を補わなければならない。このため、主翼の迎え角を大きくしたり、エンジン出力を上げて機体の速力を上げて揚力を増やす必要がある。
ここで揚力の計算式を見てみよう。

ρは空気密度、Vは機体速度、Sは主翼面積、CLは主翼の翼型で決まる揚力係数である。揚力(L)を増加させるには、これらの諸項目を増加すればよい。
まず、速度(V)であるが、機体速度は2乗倍で効くため一番効果がある。実際、飛行機の性能が進歩したのは、主翼を小型化しつつ、高速化によって揚力を稼いでいたからである。ただし、旋回飛行では、エンジン出力を上げて機体速度を上げるのには限界がある。というのも、エンジン出力を上げて機体速度がジワジワ上がるより、失速によりあっという間に落下する方が早いからである。
では、残りの項目のうち、主翼面積を増やすのはどうだろうか。この手法の代表は、第一次大戦で活躍した複葉戦闘機である。特に、第一次大戦の撃墜王レッドバロンことリヒトホーフェンの愛機フォッカーDr.Ⅰが有名である。Dr.Ⅰの主翼はなんと三枚重ねの三葉機であった。しかし、主翼面積をむやみに増やすと空気抵抗も増えるため、高速を出しにくいという弱点があるため、第一大戦後に、全金属製の飛行機が作られるようになると廃れてしまった。
最後に残ったのが、揚力係数:CLである。CLは、主翼断面の形状(翼型)と主翼の迎え角で決まる定数である。一般に迎え角を増やせば揚力も増えるのであるが、最大揚力を超えると失速が発生し、揚力がまったく発生しない状態に陥る。

主翼の翼型は機体の基本形状であり、簡単に変更することはできないのだが、フラップを下げることにより、疑似的に翼型の反り(キャンバー)を大きくして揚力を上げることができる。
弱点は、フラップを使うと主翼の抵抗も大きくなるため速度が低下することであるが、うまくフラップを使って旋回時に生じる揚力不足を補えれば、旋回半径を小さくすることができるのである。
3.自動空戦フラップの理論
ここで改めて主翼に働く揚力について考えてみよう。主翼(翼型=翼断面形状)に前方から空気流が当たると、揚力と抗力が発生する。この揚力と抗力の合力が主翼を浮かせる力として作用する。この合力は、主翼の迎え角が増加するに従って増大するが、ある限界角に達すると主翼上面から気流が剥離し、失速状態となる。

一方、主翼後部にあるフラップを下げることは、翼型の反りが増えることになり、揚力が増大する一方、空気抵抗も増加する。この関係を示したのが揚力係数CLと抗力係数CDの関係を示したグラフである。
主翼には本来、揚力と抗力が作用するのだが、これを単位のない無次元数に変換したのが揚力係数CLと抗力係数CDである。
CL、CDは、主翼の形状(フラップ角度)や迎え角によって変化する。

陸軍の2式戦闘機『鍾馗』に使われた戦闘フラップは、操縦桿上にある赤(開)と青(閉)の2個の押しボタンで、閉(フラップ角0度)、離陸時20度、着陸時45度、空戦時15~20度の開度を操作するものである。しかし、空戦中に手動による角度変更では、飛行状態により、充分な揚力が発生しなかったり、逆に、抗力が大きくなって速度が低下する恐れがある。
川西飛行機が考えたのが、旋回飛行の状態によって、フラップの角度を最適にするため、フラップ角0度のCLーCD曲線を基本として、5度、10度、20度、30度の曲線群の頂点(CL最大点)を結んだ曲線(包絡曲線)となるようにフラップの角度を操作することであった。こうすれば無段階で最適のフラップ作動角を選択することができるからである。問題は、どのようにして最適なフラップ角度を選択するか、である。
先ほど揚力の式を説明したが、旋回飛行時の揚力は次のようになる。

ここで、機体の主翼面積(S)と機体重量(W)を一定とすれば、揚力係数(CL)と荷重倍数の関係は動圧(q)に比例することが判る。

つまり、動圧変化が揚力係数(CL)と旋回時の荷重倍数(n)の関係に現れるのである。

川西飛行機の技術陣が考えたのは、ピトー管で動圧を測定し、そこから揚力係数と荷重倍数を求めるというアイデアだった。
ピトー管はパイプの一旦から空気流を取り入れ、静圧と動圧の差圧を感知する装置である。

例えば、図10(a)のような装置に水を入れると、動圧が差圧が水柱の高さとして表示される。通常の対気速度計では、変型しやすい金属できたベローズと呼ばれる部品の変形量を指針の動きに変えて表示する。
川西技術陣が考えた自動空戦フラップのカナメともいうべき『指令装置』には、上下に分かれたチャンバ(隔室)があり、ピトー管からの静圧はチャンバ上部に、動圧はチャンバ下部に導入される。上下のチャンバ間は水銀が入れられており、機体の速度が速くなり動圧が上がると、その差圧により、水銀が管内を上昇する(図10(b))。一方、旋回飛行などで荷重がかかると、水銀柱は高さが下がる。(図10(c))
図8のフラップ角度別のCLーCD曲線群の包絡線を結ぶと、フラップ角度に対する動圧の関係式を導くことができる。これを逆算して動圧変化を検出して最適のフラップ角度となるように制御すればよいことになる。

自動空戦フラップシステムの作動を説明する前に、まず、指令装置の作動について説明する。
指令装置には上下に分かれたチャンバがあり、ピトー管からの静圧はチャンバ上部に、動圧はチャンバ下部に導入される。上下のチャンバ間は水銀が入れられており、機体の速度が速くなり動圧が上がると、その差圧により、水銀が管内を上昇する。一方、旋回飛行などで荷重がかかると、水銀柱は高さが下がる。
金属円筒の中心に絶縁された棒状電極が固定されており、カムの動きで電極全体が上下する構造となっている。カムはフラップの角度に連動する。
水平飛行する場合には、動圧変化によって水銀柱が上昇する。この時、棒状電極と水銀が接触し、棒状電極はON状態になる。一方、円筒電極は高さに差があるため水銀と接触せず、OFF状態である。
旋回飛行に移ると荷重がかかるため、水銀の高さが下がる。この結果、棒状電極はOFF、円筒電極もOFFとなる。この状態でフラップが下がり始める。
フラップの動きに連動してカムも回転し、電極全体が下降する。ここで、棒状電極が再び、水銀に接触することで、フラップが停止する。このため旋回時に発生する荷重の強さに対応して自動的にフラップ角度が最適となる。
なお、カムの形状(カムプロフィール)は、図11のグラフの関係式を再現する形となっているが、図12ではカム形状を判りやすい形状に変えている。
水銀は密度が高いため、動圧による高さの変化が小さいという問題があり、最大フラップ下げ角30度の場合でも水銀柱の高さはわずか6mmしかなかった。この水銀のわずかな変位を検出し、最適なフラップ角度とするため、カムの形状自体が一種の制御プログラムとも言える。
その後、旋回飛行から直進飛行に移行すると、旋回時の荷重が消えるが、この時、電極は作動前の位置から下がっているため、荷重が抜けて元の位置に戻った水銀は棒状電極と円筒電極両方に接触する。このため、棒状電極ON、円筒電極ONとなり、この状態でフラップが上がって元に戻る。その時、フラップ角度が小さくなるにつれて、カムも回転し、その結果、電極全体が上昇し、円筒電極が水銀から離れることで、棒状電極がON、円筒電極はOFFとなり、フラップは閉状態を維持する。

4.自動空戦フラップの主要部品
自動空戦フラップの主要構成部品について解説する。
A.指令装置

図13は、自動空戦フラップの指令装置の模式図である。ピトー管から静圧と動圧を取り出し、その差圧を水銀柱の変化に変え、その変化を電気スイッチとして利用するものである。表面張力の影響を押さえつつ、水銀柱の変化をできるだけ大きくするため、直径7mmのパイプを使っている。このパイプの内部に円筒状の電極が、その中心に棒状の電極が設置されている。棒状電極は円筒電極よりわずかに長く、電極が2つとも水銀に浸った場合はフラップ上げ、棒状電極のみ浸った場合は中立(フラップ停止)、2つの電極が水銀から離れた場合はフラップ下げの制御を行なう
継電器はコイルとスイッチで構成された、いわゆるリレーである。フラップ下げ側は、常時ON状態であり、継電器のコイルに通電すると、OFFとなる。
一方、フラップ上げ側の継電器は、常時OFF状態であり、継電器のコイルに通電するとON状態となる。
水銀は他の金属を容易に溶かしてアマルガムを作るため、アルミ合金で構成された機体への飛散は絶対に避けなければならない。そこで、対策として、フェルト材が内部に設置されている。また、静圧と動圧を正しく測定するため、電極が上下する静圧側のチャンバに設置されたゴム製のベローズに電極を通すことで、密閉性を保っている。
フラップが作動するとそれに連動してフラップ追従カムも回転し、その動きは連動レバーによって電極を上下させる。つまり、フラップ作動の情報が機械的にフィードバックされ電極の高さが変わり、フラップの作動量を制限しているのである。
図には明記されていないが、「自動空戦フラップ」の操作スイッチがコックピット内にあり、パイロットは任意に「自動空戦フラップ」のON/OFFを選択できる。また、背面飛行時の対策等がなされているが、本稿では概略の説明であるため、記載していない。
B.自動空戦フラップ制御装置

図14は自動空戦フラップの制御装置の模式図である。 図の左側にはフラップの上げ下げを制御する2つのソレノイドがある。ソレノイドは通電すると内部にある電磁石が磁力を発生しロッドを引っ張るが、非通電状態では、引っ張りばねの働きで元の位置に戻る。各々のロッドの先端には支点を介したフラップ下げ側と上げ側の2つのアームが付いており、ソレノイドの作動によって方向制御弁のピストンを上下に動かす。
方向制御弁は油圧機器に使われる一般的なものである。入力ポートには油圧ポンプの作動で発生する高圧の作動油が入り、出力ポートから作動油が出ていく。方向制御弁ピストンが上下することにより、出力ポートの位置が変わり、最終的にリターンポートからオイルタンクに戻って行く構造となっている。
5.自動空戦フラップの作動

図15は自動空戦フラップ・システムの概略図である。この図を基に自動空戦フラップがどのように作動するかを見てみよう。
制御装置(図14参照)の方向制御弁の2つの出口ポートは、フラップを動かす油圧アクチュエータに接続されている。
指令装置(図13参照)上部にあるフラップ追従カムには滑車が固着されており、ケーブルを介してフラップ作動軸に固着された滑車と連結されている。このため、フラップの作動に追従して指令装置のフラップ追従カムも揺動することになる。

図16は、水平直線飛行状態であり、フラップは主翼後端に格納された状態となっている。
飛行時に発生する動圧によって水銀が指令装置内の棒状電極と接触しており、フラップ下げ継電器が通電する回路が形成される。この結果、継電器のスイッチはOFF状態となり、フラップは収納位置のままである。

図17は旋回飛行開始状態である。旋回によって生じる荷重によって、指令装置内の水銀柱の高さが減少し、接触していた棒状電極が水銀から離れる。
この結果、フラップ下げ継電器の通電が切れるが、同時に継電器内のスイッチが通電状態になる。すると、フラップ下げソレノイドが作動して下げ側レバーを下に引く。その結果、上げ側レバーがばねに引かれ、方向制御弁ピストンが引き下げられる。この結果、方向制御弁はフラップ作動アクチュエータへ油圧を供給し、フラップが下がり始める。

図18は旋回飛行中の状態である。指令装置によってフラップが作動すると、フラップ側の滑車の回転がケーブルを介してカム側の滑車を回転させ、フラップ追従カムが連動して回転、カムプロフィールをなぞる形で連動レバーが動き、棒状電極と円筒電極が下がっていく。中心の棒状電極が水銀に接触すると、フラップ下げ継電器のコイルに通電する。この結果、コイルの磁力で継電器のスイッチが遮断され、フラップ下げソレノイドへの接続も遮断される。すると、引っ張りスプリングの力で上げアームと下げアームが復帰する。その結果、方向制御弁も油圧ポンプからの油圧供給も停止され、フラップはその位置で停止する。

図19は旋回飛行から水平飛行に移行した直後の状態である。旋回中に発生する荷重がなくなるので、水銀柱は元の高さに復帰するが、フラップ追従カムによって棒状電極・円筒電極とも初期位置より下がっているので、水銀柱がふたつの電極に接触することになる。この結果、フラップ下げ継電器、フラップ上げ継電器のコイルが通電し、フラップ下げリレーがOFFに、フラップ上げリレーがONになる。これによって、フラップ上げソレノイドが上げアームが引き下げられ、方向制御弁ピストンが連動して作動する。最終的に油圧アクチュエータのポートの位置が切り替わり、フラップが上げられる。

図20は旋回飛行から水平飛行に移行し終わった状態である。フラップの作動に連動してフラップ追従カムが初期位置に戻ると、棒状電極と円筒電極も引き上げられるが、円筒電極が水銀から離れても、棒状電極の方が長い分、棒状電極と水銀との接触は保たれる。このためフラップ下げ継電器のみが作動して、ソレノイドを動かすフラップ下げリレーがOFFとなり、フラップが停止する。
6.自動空戦フラップの効果
自動空戦フラップを装備した効果はどのようなものであっただろうか?
実際にテストしたパイロットたちの証言は以下のようになっている。
- 紫電改の模擬空戦試験では、170kgf/㎡という高翼面荷重であったにもかかわらず、140kgf/㎡相当の操縦性が得られ、有効な空戦運動が可能であることが判明した。(強風、紫電、紫電改の開発と変遷;秋本実;世界の傑作機 No196 株式会社文林堂)
- ただちに『雷電』との比較試験が行われた。比較試験の結果は『紫電改』の完全勝利だった。『雷電』よりも高速で零戦との格闘戦でもほぼ互角に戦える『紫電改』の汎用性は熱烈な指示を集め、『紫電改』は極地戦闘機だけでなく、『烈風』に代わって次期艦上戦闘機への採用も決定する。(日の丸の翼No36 海軍局地戦闘機『紫電改』 ;古峰文三;歴史群像 No121)
以上の証言を分析すると、
紫電21型(紫電改)は全幅11.99メートル、全長9.346メートルで、主翼面積は23.5平方メートル、全備重量は4000キログラムであり、翼面荷重170.2kg/㎡である。
一方、同じ日本海軍の零式艦上戦闘機(以下、零戦)52型は全幅11.0メートル、全長9.05メートル、主翼面積21.338平方メートル、全備重量2733キログラムで、翼面荷重128.1kg/㎡である。
全備重量と翼面荷重にこれだけの差がありながら、ほぼ互角の空戦戦闘を持っていたということからも、自動空戦フラップの有効性が判る。
7.余談
現在の電子制御システムの基本は、フィードバック制御である。これは、入力側のセンサの変化量をコンピュータが読み込み、コンピュータが出力側のセンサの数値が入力側のセンサの数値と一致するようにアクチュエータを制御するものである。
一方、電子制御技術技術が未成熟な時代には、自動空戦フラップのようにフィードバック制御を機械的に行っていたのである。
ところが近年、この当時の機械式フィードバック制御を理解していない文系作家たちが、安易にセンサという表現を使うことがある。センサは圧力、温度、角度などを電気信号に変換する部品であり、ECU(電子制御ユニット)を使った電子制御システムに使うものである。
かつての機械式制御の詳細が失われつつある現在、センサのような表現を使っていては、そのうち、当時既に電子制御が使われていたなどという誤解が広がりかねない。今回はそのような動機で自動空戦フラップについて書いてみた。
参考資料
・ 世界の傑作機 強風、紫電、紫電改(ISBN978-4-89319-310-0)
・歴史群像No121 日の丸の翼No36 海軍局地戦闘機『紫電改』 古峰文三























