2024年6月 トヨタ、ホンダなど日本を代表する自動車メーカーが『認証試験』で不正を行っていたことが明らかになった。この認証制度は自動車関連の法律の根幹をなすもので、日本国内で販売される全自動車に対して適用され、認証試験に合格していなければ、自動車を販売することはできない。
まさしく、メーカーの存続に関わる大問題であるが、メーカーは認証試験よりもっと厳しい条件の社内試験で合格した、と回答し、それを受けたマスコミやSNSの論調も悪いのは実態に合わない認証試験を強要したり、認証手続きに時間をかけるお役所仕事体質の国交省の方が悪い、という論調に変わっている。
有名なグルメ評論家が、ある地方のレストランの名物料理を試食せず、似た料理は食べたからと、想像や食べログの情報だけで、その名物料理を評価したらどうだろうか?
料理は味は良いのは当たり前であるが、盛り付け、付け合わせ、さらにレストランの雰囲気など総合的に評価しなければ、意味がない。
そうした総合的な観点がその料理を美味しいと感じさせ、グルメ評論家は独自の感性と文章表現で伝えることができるから、評論家なのである。
もし、この評論家が他人の評価を参考にして適当に書いていたことが判れば、信用はアッという間に失墜するはずである。
ところが、今回の自動車メーカーに対しては、不正をした側が評価される、という妙な方向に動いている。
蜀犬も元エンジニアということで、この問題を注意深く見ていたが、その中で気になる記事を見つけた。寄りにもよって、自動車雑誌の記事がメーカーの片棒を担ぐような提灯記事を書いていたのである。
特に、エアバッグのタイマー作動について、はかなり、問題だと思うので、この部分を突っ込んでみたい。
>クラウンは4WDモデルだけ不正認定に…エアバッグのタイマー点火はなにが問題なのか?
>2024年6月6日/コラム
>認証不正発覚後、ベストカーWebで「不正」と認定された内容についての解説を
>してきたけれど、多くの人から「安全性を考えたら一番やっちゃダメでしょ!」と
>思われているのは、エアバッグのタイマー点火のようだ。私はトヨタの説明を聞い
>て「問題ない」と判断したのだけれど、皆さんエアバッグについて知らないらしく
>理解できていない。しっかり説明する。
>衝撃センサーが一定以上のGを検出した際、エアバッグが展開するかどうかについ
>て言えば、すでに30年前に決着している。エアバッグの基本技術、戦闘機の非常脱
>出シートと同じ。99.99%以上の確度を持つ。
>したがって専用のシステムと配線を使うことで展開しないということは事実上無い
>(世の中に100%は存在しない考える)。
>問題となってくるのは展開タイミング。
>ダイハツの不正は開発途中のクルマであり、展開タイミングさえ決まっていない時
>点で試験を行なっている。当然ながら衝撃感知センサーとの連携も出来ておらず、
>タイマーで展開させないといかんともしがたかった。
>ちなみに市販モデルでは適切なタイミングで展開することが確認されたため、認証
>取り消しになっていない。悪質ながら、ユーザーへの不利益はなかった。
> [試乗&解説リポート] 2024年6月6日
>文:国沢光宏/写真:ベストカーWeb編集部
いろいろ突っ込みどころ満載の文章であるが、いやしくも自動車評論家がこの程度
の技術レベルなのかと思うと、悲しいよりも愕然としてしまう。
>エアバッグの基本技術、戦闘機の非常脱出シートと同じ
エアバッグの基本技術というのは、エアバッグ本体内部に設置されたインフレータ(ガス発生器)に電気が流れると、インフレータから大量のガスが爆発的に発生し、布袋製のエアバッグ本体が膨張展開するということである。
一方、戦闘機の非常脱出シートであるが、シート本体はコックピット内に上下方向に設置されたレールに載せられており、ヘッドレストの左右上部にあるリングをパイロットが引くと、火薬(推進剤)が発火してシートを上方へ打ち出すものである。整備作業などで、うっかりリングを引かないように、通常はピンがはめられており、離陸直前に整備員はピンを外してパイロットに見せて、非常脱出シートが作動可能であることを伝えている。
要するにエアバッグ本体や非常脱出シートの作動にガス発生器を使うというのは、高度な電子制御を伴わない、いわば枯れた技術であると言える。
と、この点は、この評論家の言うことは正しい。
しかし、非常脱出シートはパイロットが自らの意思で作動させるのに対して、エアバッグはセンサー系を含めて一連の自動化システムによって作動するのである。
とすると、エアバッグで大切なことは、エアバッグ単体が作動するかどうか、ではなく、エアバッグシステムが作動するかどうかである。単体作動とシステム作動ではその難易度に天地ほども違いがある。
では、エアバッグの作動について具体的に見てみよう。
まず、自動車の衝突を感知する衝撃センサが車体前方に設置されている。車の先端部がぶつかると徐々にボディはその衝撃によって変形、衝撃を吸収していきながら運転席に伝わっていく。この一連のプロセスは実際には極めて短時間に起こるので、エアバッグを作動させる時間を少しでも長く確保するために、衝撃感知センサーは前方に置かれるのである。
一方、センサが検知した衝撃信号は車体中央に設置された電子制御ユニットに送られ、衝撃の強さが判定される。例えば、エンジン整備等で開けたボンネットを力一杯閉めた程度の衝撃で作動しては困るからである。
また、車輛が停止状態であったり、ドライバーが乗っていなければ、エアバックを作動させる必要もないので、電子制御ユニットは、車輪測センサやシート感圧センサ等からの情報によって作動条件させるべきかどうかを判断している。
車輛前方から設定値以上の衝撃が加わり、その他の情報からエアバッグを作動させるべきだと電子制御ユニットが判断した場合、インフレータに電気信号が送られて大量のガスが爆発的に発生、エアバッグが展開される。
意外な盲点がセンサ本体、そしてセンサと電子制御ユニットをつなぐ、電力/信号線(以下、ケーブル)である。ぶつかった衝撃で車体が変形する際、センサ本体が壊れては意味がないし、ケーブルがボディの変形に巻き込まれて切断されてしまっては、センサからの信号が伝えられなくなる可能性があるからだ。
そうした懸念を払しょくし、エアバッグシステムの作動を確認するために、実地試験があるのだ。タイマー作動でエアバッグ本体を作動さえるだけでは、システムとしての作動が確認できないのは明らかだろう。
さて、トヨタでは、クラウン2WDのでエアバッグの認証試験で問題がなかったので、4WDでは認証試験を実施せず、開発中のデータで済ませたということだった。4WDでは前後輪に駆動力を伝達しなければならないため、前輪駆動ユニットを追加する必要がある。当然ながら、車体のボディ剛性もそれに対応して強くしておかねばならず、この結果、必然的に車輛重量も2WDより重くなる。
トヨタの社長が言うようにキャビン(運転席廻り)は2WDと4WDは共通かもしれないが、車体前部は大きく異なっているのである。2WDでのエアバッグシステムの認証試験の結果をもって、4WDの認証を代替すると言うのは、条件が違い過ぎていて、代替する方がおかしいのではないだろうか。
>ちなみに市販モデルでは適切なタイミングで展開することが確認されたため、認証
>取り消しになっていない。悪質ながら、ユーザーへの不利益はなかった。
もちろん、開発力には定評のある世界のトヨタであるから、その後4WDのエアバッグ認証試験は問題なくパスしたそうだ。
それはそうだろう。ポッとでの新規メーカーならいざ知らず、類似の車種でさんざんエアバッグシステムの作動テストを実施し、認証試験をパスしてきたのだから。
しかし、だからと言って、ユーザーの不利益はなかったから、問題ない、というのはそれこそ問題意識が低すぎるのではないだろうか。
全国統一模擬試験で一位になった生徒がいて、その模擬試験の結果を盾にして、入学試験を受けずに入学させろ、と主張しても、大学側としては『入学資格は入学試験の合格者に限る』という規則を元にして却下するはずである。
いやしくも日本国内で自動車を販売する以上、法律を遵守するのはある意味当然のことと言えるだろう。